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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)65号 判決 1964年1月31日

控訴人 小野洪

被控訴人 国

訴訟代理人 河津圭一 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 <省略>

理由

控訴人の本訴請求原因の要旨は

「訴外福田忠一郎は、訴外大野建工株式会社の使用人として同会社の訴外河内喜多蔵に対する請負代金の取立を命ぜられ、内金五十万円を取立てながら同会社にこれを納入せず、着服している事実が発覚したため、右訴外会社は、昭和三十五年八月十六日府中警察署に同人を告訴すると同時に福田につき右金員の所在を追求したところ、同人は知人に預けてあると称し訴外竹内正男から詐取した一万円紙幣五十枚を翌十七日持参して訴外会社に入金したので、情を知らない訴外会社の代表取締役たる控訴人はこれを受取り保管した。ところが右同日同警察署長から右福田の横領被疑事件の証拠物として右紙幣の任意提出方の要求があつたので、控訴人は、用済の上は控訴人に返還され度い旨を明記した任意提出書と保管中の右紙幣を提出、領置せられたところ、その後右福田は詐欺、横領罪として東京地方裁判所八王子支部に起訴せられ、有罪判決が確定し、東京地方検察庁検察官事務取扱副検事酒井博は同年十一月十日領置中の右紙幣を賍物として被害者竹内正男に還付処分をしたものである。

しかしながら、控訴人は、右福田から右紙幣の交付を受けた際、同人において右竹内からこれを詐取した事実を知らず、河内から集金したものと信じて受領したものであり、かく信ずるについて控訴人に何等の過失もなかつたのであるから、右訴外会社は即時取得により右紙幣の所有権を取得し、従つて既に賍物性を失つた右紙幣を右竹内に還付した処分は違法であつて、控訴人は自己の責任において右金額を訴外会社に弁償せざるを得ざるに至り、同額の損害を被つた。仮にそうでないとしても、金銭は所持の移転とともにその所有権も移転すると考えるべきであるから、控訴人自らが右紙幣を喪失し同額の損害を被つた。よつて、控訴人の被つた損害の賠償を求める。」というのである。

思うに、金銭債権取立の代理権を与えられた者がその弁済を受領した場合には、その受領と同時に弁済の目的物の所有権は本人に移転し(債務の消滅することも勿論である)、その代理人から本人に受領した金銭を交付する行為は、所有権移転の効果を生ずるものではないから、民法第百九十二条の要件である物権の移転を目的とする取引行為に該当しない。従つて、本件において福田忠一郎が右訴外会社の授権に基づきその代理人として取立てた金銭として、控訴人主張のように竹内正男から詐取した本件一万円紙幣五十枚を右訴外会社代表者たる控訴人に提供し、控訴人も、またその趣旨においてこれを受領したものであること控訴人主張のとおりである以上これにつき右訴外会社に即時取得の成立する余地は存しないから、右紙幣は詐欺の被害者たる竹内ゐ所有に属したものというべきである。

仮に、右紙幣が右訴外会社の所有に帰したとしても、その代表取締役たる控訴人が刑事事件の証拠品としてこれを任意提出した行為をもつて商法第二百六十六条第一項に該当すると解することはできないから、本件紙幣について違法な還付処分が行われたために、右訴外会社がその所有権を喪つたとしても、これによつて控訴人が右訴外会社に損害賠償義務を負担するいわれはない。

また、控訴人が主張するように紙幣が通常の有体動産と財貨の性質を異にするからといつて、本件の場合のように、右訴外会社の代表者として本件紙幣を保管する控訴人が当然にその所有者となるものとは解せられない。

以上の次第で、いずれの点からしても控訴人の本訴請求は主張自体失当である。

よつて、本件控訴はこれを棄却し、民事訴訟法第九十五条第八十九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 小沢文雄、仁分百合人、池田正亮)

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